【修善寺】新井旅館

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15棟の文化財建築と天平大浴堂で味わう歴史の重層美

修善寺温泉の清流桂川沿いに佇む「新井旅館」は、明治5年(1872年)に「養気館新井」として創業し、創業150年以上の歴史を誇る修善寺温泉を代表する老舗旅館です。明治から昭和初期にかけて館主を務めた三代目・相原沐芳(本名寛太郎)が、日本画家の安田靫彦や横山大観、文豪の島崎藤村、芥川龍之介をはじめとする文人墨客と深い親交を結び、その縁で日本画や文学など数多くの名作が生まれる舞台となりました。現在では全16棟のうち15棟が国の登録有形文化財に指定されており、芸術家の感性が建物や庭園に生かされた貴重な文化遺産として、時代を超えるタイムスリップの旅を提供する特別な宿として多くの人々に愛されています。

最大の見どころは、昭和9年(1934年)に建築された大浴場「天平大浴堂」です。1000年はもつと言われる台湾桧(台湾杉)を使用した総檜造りの浴場で、国内随一の名建築として国の登録有形文化財に指定されています。天平時代の建築を模した荘厳な造りは、お寺や神社を思わせる重厚な雰囲気を醸し出し、シャワーや蛇口のない純粋な湯船で、まるで貴族になったような気分で温泉を楽しむことができます。お風呂に浸かりながら外の池を泳ぐ鯉を眺めることができる窓なども設けられており、棟梁の遊び心と技術の粋を垣間見ることができる、今では再現不可能な貴重な建築物となっています。

温泉設備は「天平大浴堂」をはじめ、館内6カ所で源泉掛け流しの修善寺温泉を楽しむことができます。2023年春には新たに「折節(おりふし)の湯雪花(せっか)」がオープンし、「あやめの湯」、木漏れ日をあびながら楽しめる野天風呂「木漏れ日の湯」、そして貸切風呂として「睡蓮(有料・1回45分1,100円)」「翡翠(無料・予約不要)」が完備されています。どの浴場も源泉掛け流しで、修善寺温泉の優しい湯質を心ゆくまで堪能することができます。

文化財建築群も見どころの宝庫で、明治14年(1881年)建築の「青州楼」を皮切りに、明治32年(1899年)の「渡りの橋」「雪の棟」、明治41年(1908年)の「霞の棟」、大正5年(1916年)改築の「桐の棟」、昭和9年(1934年)改築の「花の棟」、昭和10年(1935年)の「吉野の棟」など、各時代の建築様式を反映した貴重な木造建築が軒を連ねています。館内を歩くだけで明治から昭和にかけての建築史を体感でき、まさに生きた博物館としての価値を持っています。

客室は31室すべてが純和風の造りで、登録有形文化財の建物内に配されています。特別室「吉野」は贅沢な広さと優美な造りで、客室からは清流桂川の眺めを楽しむことができます。「花の棟」の客室はミシュラン★★の景観を望む立地で、桂川沿いの修善寺を象徴する竹林の景色を一望できます。「桐の棟」は池のほとりに浮かぶように建つ準特別室として人気があります。どの客室も歴史ある建物の中で、昔懐かしい時代にタイムトリップしたかのようなノスタルジックな空間を提供しています。

料理は全国日本料理コンクールや料理技能コンクールで賞を獲得した料理長が腕を振るう「月替わりの会席料理」が基本となっています。海の幸、山の幸を使用した旬の素材を活かした料理で、お造りに欠かせない生わさびは地元の伊豆天城産を使用し、お部屋で擦りたてを提供するこだわりです。夕食はお部屋食でゆっくりと素材の味を楽しむことができ、朝食は一般市場にあまり出回らない地元産の「桂流こしひかり」を使用した重箱膳で、いろいろな食材を少しずつ楽しめる上品な仕上がりとなっています。

文化振興への取り組みも新井旅館の大きな特徴で、文化財となった建物を案内する「文化財ガイドツアー」を実施しているほか、館内には若手女流書家である金澤翔子の美術館「銀座 金澤翔子美術館 修善寺」を開設しています。また、書画展示室では新井旅館の歴史に触れることができ、文学や芸術に関心のある宿泊客にとって特別な文化体験を提供しています。

館内には桂川より引き入れた小川が流れ、そのせせらぎに耳を傾けながら、やさしくそよぐ風を感じてテラスで一休みすることができます。風流な景色を望みながらコーヒー片手に読書する時間は、文豪気分を味わえる贅沢なひとときです。2022年には多目的ホール「祥雲」を全面改修し、壁一面をライブラリとした「東裡」として整備するなど、読書空間の充実にも力を入れています。

アクセスは修善寺駅からタクシー(バス)で7分、東名高速道路沼津ICから伊豆中央道経由で約30分の立地です。駐車場は有料で、大型バス1台2,500円、中型バス1台1,500円の料金設定となっています。チェックインは15:00、チェックアウトは11:00で、宿泊料金は2名税込46,200円からとなっています。

立地も修善寺観光には最適で、徒歩約3分の「竹林の小径」は日没後にライトアップされ幻想的な雰囲気に包まれます。修禅寺、独鈷の湯などの主要観光スポットへも歩いて行ける距離にあり、修善寺温泉街散策の拠点として理想的な立地です。

「新井旅館」は単なる宿泊施設を超えた文化的価値を持つ特別な存在です。150年以上の歴史の中で培われた伝統、国の登録有形文化財15棟が織りなす建築美、文人墨客に愛された芸術的な環境、そして現代でも再現不可能な天平大浴堂での湯浴みは、他では決して体験できない唯一無二の価値を提供します。館内のどこを見ても歴史が感じられる純和風空間で、安らぎと癒しの時を過ごしながら、明治から昭和にかけての日本の文化と美意識に触れることができる貴重な体験をお楽しみいただけます。文化財に泊まり、文化財の風呂に入り、文人たちが愛した庭園を眺めながら過ごす時間は、まさに「時代を超えるタイムスリップの旅」として、訪れる人々の心に深い感動と記憶を刻むことでしょう。

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